「ライディング・コート (Riding Coat)」
貴族社会の乗馬服
17世紀から18世紀にかけてのイギリス貴族社会は、フランスの貴族社会とは違い、一年の大半を領地で過すか、諸侯の領地を訪ねてスポーツに興じていたそうです。18世紀末になると、乗馬や狩りに没頭し、さらに後年には、ドライブが加わっていく生活になっていきます。
その為、1780年代に流行する(写真①)のような服装で一日を過すことが多くなりますが、まともな夜会では盛装をしていたようです。 その後、フランスでもイギリス心酔の流れが止まらず、パリにも乗馬服が登場することとなります。
また20世紀のスーツの仕立てにおいても、乗馬服が多くの影響を与えていたことは、服の変遷からも推察することが出来ます。
乗馬用レイン・ウェア
最も古い乗馬用レイン・ウェアは、ゴムの木から採取した乳液で加工された織物地の大きな四角い布だったと云われています。
その後1823年には、英国グラスゴーのチャールズ・マッキントッシュ(Charles Macintosh)が、2枚の生地を揮発油とゴムの溶液で接着することによって、防水素材を作り出します。 この素材を使用した「マッキントッシュ」と云う名称の防水衣料が現在の乗馬用にも使われ、接着した縫い目にはテープをはって作られています。
シルエットは、鞍にまたがった時に裾が鞍全体を覆うほどの十分なゆとりがある扇形で、深いバック・ベントと膝を保護する為のニー・フラップや、風が吹いた時にコートが吹き飛ばされないよう、紐が付いていたことが大きな特徴です。
その時の靴は、ポロ・ブーツが改良されたジョドパー・ブーツで、1920年代に一般化します。1930年代初期には、ジョドパータイプのパンツとジョドパー・ブーツの組合せで、急速に広まっていったようです。
日本での展開
日本では「Mackintosh」より、1915年に丸善がインポート商品として、輸入を開始した「Burberrys」のレイン・コートが最初で、戦後は1965年に三陽商会が輸入販売を始めています。
信濃屋でも、戦前から直接輸入をしていたようですが、1970年前後には、三陽商会を通しての取扱いとなります。今回ご紹介するコートの原型となる「ライダー」の他、「コマンダーⅡ」や「ラドゥナー」、「ショート・シューター」など数々のモデルを展開してきましたが、現在では取扱うことが出来ません。また本国のイギリスに、今でもあるのかは不明です。
2008年頃からは、弊社顧問の白井が愛用する「Burberrys」ライダー・コートをアレンジし、「信濃屋オリジナル」として色やポケットの形を変えながら、毎年作製しています。
参考文献
・大修館書店 『ハーディー・エイミスのイギリスの紳士服』
・スタイル社 『エスカイア版20世紀メンズ・ファッション百科辞典』日本語版
・Wikipedia 「バーバリー」「モーニング・コート」
・高木啓仁氏 ブログ 「ひと日記」
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