「スラックス (SLACKS)」
スラックスの由来
世界最古のスラックスは、約3000年前にアジアの遊牧民が馬に騎乗する際に着用していたもので、その後ハンガリー人やオスマン人によって、ヨーロッパに伝えられたと云われています。また日本でも、3世紀頃より直垂(ひたたれ)というスラックスと同じ形式の着物が着られていたようです。
スラックスは英語の「スラック/ゆるい」という言葉から来ていて、その複数形でスラックスと呼ばれていますが、欧米ではあまり使われていない言葉で、日本的な感じの英語です。「ゆるみ/たるみ」を意味する英語に由来するところから、スポーティな長ズボンを意味しています。
対して英語名で使われるトラウザースは、スーツのようなドレッシーなズボンの事を指し、中世アイルランドのTRIUBHAS(体にぴったりとしたショートパンツ)から来たゲール語を起源としています。またアメリカ(米語)のパンツは1960年代から使われ、日本では今でも長ズボンと呼ばれる事が一般的に多いようです。
スラックスの変化と発展
スラックスが一般に普及したのは、16世紀以降になってからと云われていますが、本格的にファッションとして取り入られるようになったのは、19世紀中頃と思われます。ニッカーボッカーズや尾錠付きのものが登場したのも、ちょうどこの頃だったようです。また他のメンズアイテムと同様、ヨーロッパからアメリカに渡り、変化をして現在に至ったと云われています。
20世紀初頭のアメリカでは、お洒落を意識した紳士達が、ビジネススーツの上着と白のリネンやフランネルのスラックスを着用したことがきっかけで、今までスーツのボトムスとしてのスラックスが、ひとつのアイテムになっていきます。
1920年代には、ニッカーボッカーズの丈を長くした「プラスフォアーズ」を、英国皇太子がゴルフ等のスポーツシーンに履いた事で大流行します。またこの頃から細身のシルエットのパイプドステムや、逆にバギー型で裾幅が20インチ位ある「オックスフォードバッグズ」が登場するなど、様々な変遷があったようです。
『メンズウエア』1923年4月号の記事によると、当時のスラックスに使われていた主な素材をアメリカのリゾート地 パームビーチでアンケートしたところ、白のフランネルとリネンが占める割合が2/3以上で、白のスウェードやコンビネーションの靴をコーディネイトした、コロニアルなスタイルを想像させます。また現在では、カジュアルやリゾートの定番であるコットン(チノ)が流行するのは、1950年代の中頃になってからのようです。
1930〜40年代には、ベルトレスのリバースプリーツやマリンスポーツ、ゴルフ、テニスにショートパンツが履かれるようになり、「スラックス・スーツ」という、シャツとスラックスを同素材の物で合わせたスタイルが登場します。そしてお洒落な男のワードローブに替えズボンが不可欠なアイテムとなっていき、この頃にメンズスタイルの原点があるのではと思われます。
信濃屋におけるスラックス
本格的に輸入物のスラックスを取り扱いはじめたのは1970年代の初め頃で、それまではオーダー中心の日本製です。当初はイタリアのスラックス専門メーカーでテーラリングクラブ(アルティノ)や、生地メーカーから始まったグリッティー(ゼニア)などを取り扱っています。
当時日本製ではダンロップマスターズやエイボンハウスなどを扱い、また生地に拘ったオリジナルも作製しています。近年もイタリア物中心の展開は変わりませんが、特徴のあるモデルなどは、国内の提携工場で生産しています。
参考文献
・メンズクラブ ブックス5 ジャケット&パンツ
・エスカイア版20世紀メンズ・ファッション百科事典
・Wikipedia
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