革 (LEATHER)
皮革の歴史
皮革の利用は人類の歴史と共に始まり、肉は食糧として、骨は生活必需品や武器、皮は保温のための衣料などに使われてきたとされています。新石器時代を通じて徐々に発展普及していき、さらに皮革製造技術は偶然の経験を積み重ねて進歩し、四大文明のメソポタミア、エジプト、インド、中国の地に受け継がれたと云われています。
日本での皮革
日本でも奈良時代頃から、皮を鞣す技術が少しずつ進歩し、中でも革に漆を塗り、金銀泥絵をにかわで描くという、外国でも驚くほどの鞣製法なども発達していきます。烏革(くりかわ)の沓(くつ)と称される、現代のブーツと大差ない履物が高位の人の乗馬用として、また太鼓などの楽器類や装飾品にまで用いられていたようです。
鎌倉時代に入ると、革足袋、馬の鞍、太刀の柄や鎧など武具にも多くの革が使われるようになり、オランダとの交易のあった安土桃山時代には、羊革に描いた地図が持ち込まれています。その他、狩用のひざ掛け袴の一種、行騰(コウズケ)という西部劇で見掛けるチャップ/ローハイドに似たものは、この頃の日本でも鹿革を使って作られ、利用されていたとのことです。
江戸時代中期には、武具中心に使われてきた皮革も、足袋、鼻緒、煙草入れなどの革細工物が多く作られ、関西の商人達により全国に流通するようになっていきます。
当時の鎖国政策によって外国との貿易は禁止されていましたが、幕府のみが長崎奉行を通じて、オランダ、中国、朝鮮からごく少量の舶来革を輸入しています。主に袋物などの工芸品が作られていたようですが、舶来革を利用する革細工は、極めて精巧で美術的なものが中心に作られており、江戸ではこの技術が非常に洗練され、名物として全国でも有名な工芸品だったと云われています。
明治時代になり、洋装が多くなるにつれ革靴を履く習慣が増えたことが、より多くの革の需要を生み出していったと思われます。当時一般の人達は、まだまだ和装が多かったようですが、明治政府の兵部省が外国技術の導入をはかり、軍人の履き物を洋靴に改めたことにより、急速に革の国内生産量と技術が発展していったようです。
また昭和25年以降は、海外との交流や、製革業者それぞれの自由な研究開発により、外国製に劣らない日本製レザーとして認知され、今日に至ったと云われています。
なめし(鞣し)
一般には、皮膚をそのまま剥ぎ使用したものを皮(かわ、ひ)と云い、皮膚の毛を除去し鞣してあるものを革(かわ、かく)と呼ばれています。剥いだ生皮は、水分を60%〜70%と多く含んでいる為、何らかの処理を施して腐敗を防止する必要があります。
鞣しの技術が確立するまでは、毛皮や脱毛皮を乾燥する過程で、揉んだり叩いたりして身に着けるものとして使っていたと思われます。その後、植物に含まれる渋(しぶ)を利用して鞣す「タンニンなめし」が開発され、19世紀後半までの長きに渡りその方法で革が生産されています。近年では化学薬品で皮を鞣す「クロムなめし」も用いられるようになりましたが、最近の環境問題から「タンニンなめし」が見直されてきています。
タンニン鞣し(VEGITABLE TANNED)
エジプトの昔から行われている極めて古い歴史を持つ有機鞣製法で、別名「植物鞣し」、「渋鞣し」とも云われ、植物の樹皮などから抽出したタンニン(渋)を使います。
特徴として厚物は堅牢で伸びが少なく、水を吸収しても乾燥が早いので用途としては工業用ベルト、靴の底革、トランクなどの用途があります。薄物では袋物、家具、製本などの極めて広い範囲に用いられています。
黒に比べると茶系の表革の場合は、使い込んで時間が経つと革が光沢感のある飴色になり、何ともいえない味わいが出てきます。反面、タンニンを皮の中心に浸透させるには、濃度を少しずつ上げ時間と30以上の工程をかける為、価格は高めになります。
クロム鞣し(CHROME TANNED)
鉱物鞣しと云われる方法は1860年頃に発見され、1884年アフガニスタン・シュルツの二浴鞣し法として工業化されましたが、10年後にマルチン・デニスが一浴鞣し法を完成させ、広く使われるようになっていきます。
※鞣しに要する時間 一浴法:約24時間、二浴法:約3日間
この鞣し法が急速な発達をみたのは、タンニン鞣しに比べて鞣製期間が短く、コストが抑えられることが大きな要因だと思われます。製品自体も伸縮性に富み、熱、摩擦に強く耐久性に優れているからとも云われています。
柔軟でソフト感がある為、薄い革を使う製品には最適で、靴の甲革、ハンドバッグ、衣料用革などのあらゆる商品に使われています。但し工程上、使用するクロムが人体に有害な物で処分の際は注意が必要とされています。
革の種類
服飾用に向く原皮の主な種類としては、牛、羊、豚、山羊、鹿がありますが、日本で消費される皮革製品中心は牛革と云われています。 ※革の単位 1デシ=10cm×10cm
牛革
一口に牛革といっても牛の成長年齢により区別され、生後2年以上のキャトルハイド(成牛)はメス牛を「カウ」、去勢したオス牛を「ステア」と呼び、ソフトな感触を望むには「カウ」、丈夫さを目的にする場合には「ステア」を用いることが多いようです。
生後7カ月〜1年の物をキップ・スキン(中牛革)、6〜7カ月位をカーフ・スキン(仔牛革)と呼び、日本ではこのカーフ・スキンが最も多く使われていると云われています。子供牛だけに面積は60〜100デシと成牛の1/5位しか取れないようですが、傷は極めて少なく、もち肌に近い柔らかい感触が好まれ、衣料品はもとより靴、ハンドバッグなどの高級品に利用されています。
一般的に日本に輸入されるものはアメリカの物が最も多く、高級なものではヨーロッパの特にドイツカーフが細かいキメと、仕上がりのツヤが美しく最良とされています。但し、近年では多くの革製造業者が廃業し、上質なものを手に入れることが難しくなっています。
羊革
牛革とは違った意味で種類が多く、産地や気候風土、品種改良によりかなりの差があるようですが、総称して「シープ」、または「ヤンピー」と呼ばれています。特徴は柔らかで軽く、薄くしても比較的丈夫なことから、身体にフィットする感触は牛革と比べものにならないと云われています。
また表面(ぎん面)に「しぼ」と称する小じわが美しく、平均しているところなどが挙げられます。革の面積は50〜70デシ位が最も良く、大きくなると木目が荒くなっていくとのことです。
豚革
日本が消費する皮革の中で、国産でまかなわれているのがピッグ・スキンだけと云われています。世界の養豚順位から見れば、中国やアメリカには及びもつかない第15位の4万頭あまりですが、日本から輸出出来る皮革として唯一のものであるとのことです。
用途としては、毛穴を生かした表革(アメ豚)を使った小物類、裏革を起毛しスウェード仕立てに仕上げた衣料品が多いとのことです。面積は90〜120デシ位のものが中心に使われています。
山羊革
「ゴート・スキン」、「キッド・スキン」と呼ばれ、どちらも表革として使用されることが多いようですが、仔山羊革のキッド・スキンはゴート・スキンと比べ薄くて柔らかく、高級手袋や靴の甲革に用いられ、他の革にはない独特の感触があります。
キッド・スキンは面積が20〜30デシと小さく、歩留まりが悪いため衣料品には使いづらく、特殊なもの以外は用いられることが少ないと云われています。
鹿革
歴史は古く、ヨーロッパ、アジアをはじめ、日本でもかつては衣料用として多く使われていたようですが、最近では特殊なもの以外は用いられなくなっています。 野生の物が殆どで小傷が多く、衣料品のような大きな面積の製品に仕上げようとすると高価になり、シープで代用出来ることから、近年の需要は手袋や自動車、眼鏡拭きなどのセーム革として、小さいものが中心のようです。
参考文献
・(株)ティーズインターナショナル レザー・ウエアの基礎知識
・Wikipedia 皮革
・元北海道大学農学研究所 竹之内 一昭氏 「原始時代の皮革」
・世界文化社MEN’S EX 2008年8月号<
・一般社団法人 日本皮革産業連合会
|