アメリカ靴 「AMERICAN SHOES」
ハンドソーンからグッドイヤー製法へ
2015年9月の「Life Style Webshop」のうんちくで、靴の歴史と起源についてご紹介しておりますが、今回はイギリス、アメリカにおいて現在の紳士靴の原型、グッドイヤーウエルト製法が登場した時代やその特徴について、少し掘り下げてみたいと思います。
多くの紳士靴メーカーが産声を上げ始めた19世紀中頃から20世紀初頭は、1750年創業の最古のブーツメーカー、「HENRY MAXWELL」に代表される、手縫いで底付けしていた工程ハンドソーンウエルトから、機械を使って行われるグッドイヤーウエルト製法に移り変わっていった時代と云われています。
この製法はアメリカでチャールズ・グッドイヤー2世が、19世紀後半にハンドソーンの底付けと同じことが出来る機械を発明したと云われています。紳士靴はヨーロッパ起源ですが、現在主流となっているグットイヤーウエルト、マッケイ両製法ともアメリカ人が考案したもので、その後ヨーロッパ、特にイギリスの各メーカーに影響を与え、一部ハンドソーンで作製するビスポークを除き、取り入れていったと思われます。
グッドイヤーウエルト製法の特徴
機械による大量生産が可能になった事で、様々な足型の人がいるアメリカでは豊富なサイズ展開が出来るようになり、価格も一般に受け入れられる金額に成っていったと思われます。参考のイラストは、1954〜5年「WALK OVER」のカタログですが、オーセンティックなモデルは、サイズが幅(ウィズ)と合わせて“190”有るのにも驚かされます。また最盛期の何年間かは、1/4(クォーター)サイズまで展開していたとも聞いています。
履き心地の良さに関しては、中底と本底のわずかな空間にコルクやフェルト等を入れることにより、適度な弾力と直接足に伝わる衝撃を和らげ、また履き込むにつれてコルクが靴底の形状へ少しずつ変化することが、大きな要因と云われています。
頑強な構造で作られた製法の為、長時間履いても疲れにくいという特徴もあります。軽くヤワな作りの靴は型くずれが起こり易く、歩行中に大きくズレてしまい、かえって負担になることが多いようです。その点グッドイヤーウエルト製法は、履き始めに若干硬く感じることもありますが、履き込むにつれて少しずつ柔らかく感じられるようになり、重厚さとは裏腹に靴の中で軽やかさが生れてくると云われています。
メンテナンスや耐久性においては底やかかとが取替えられ、長年愛着を持って履ける点でも優れていると思います。甲革や中底と本底をウエルトと縫い付けている点は、擦り減った底だけを新しいものに取り替えられます。直接縫い糸が中底と通じていない為、糸を通して雨水などが靴の内部に浸水してくることは比較的少なく、耐久性にも良いとのことです。
信濃屋におけるアメリカ靴
1960年代から様々な輸入靴を展開してきましたなかで、この3社のアメリカ靴がご好評を頂いたメーカーです。全てのモデルはご紹介出来ませんが、「白井流着こなしアドバイス」にて一部をご覧になって頂けます。
JOHNSTON & MURPHY リンカーンやケネディから近年ではブッシュまで、多くのアメリカ歴代大統領たちに愛用されてきたことで知られる「ジョンストン&マーフィー」は、1850年にイギリスの靴職人ウィルアム・J・ダトレーがニュージャージー州に店を構えた事に始まります。 ダトレーは1882年に他界しましたが、1884年にパートナーのジェームス・ジョンストンとウィリアム・J・マーフィーが意志を継ぎ、英国靴の洗練されたフォルムを持った「ジョンストン&マーフィー」が本格的なスタートを切ります。現在もCROWN ARISTCRAFTラインは、最上級の革を用いたアメリカ製として作り続けられています。
FLORSHEIM アメリカントラッドを象徴する老舗メーカーは、イリノイ州のシカゴで1892年、シグムント、ミルトン親子によって作られます。創業当時より高品質な靴を大量生産で作り、グローバルな市場で展開することを目標に、アメリカ大陸の紳士靴市場において取引量No.1まで押し上げていきます。 代表的な木型は、日本市場でも早くから紹介されたロングウイングチップの「KENMOOR」やコブラーヴァンプの「YUMA」があり、当時のIVYスタイルとの相性が良く人気を博していきます。その後はイタリア製品などの台頭もあり、オーセンティックな革靴からカジュアル中心のコレクションにシフトされ、残念ながら他の2メーカーとは違って、アメリカでの生産は殆どしていないようです。
ALLEN EDMONDS 靴職人のエルバート・W・アレンが、1922年にウィスコンシン州ミシガン湖の畔に開いたメーカーが「アレン・エドモンズ」です。「世界で一番豪華で履き心地の良いハンドメイド靴を作る」を目標に靴作りを始めた彼は、その言葉通りに釘やボンド、スチールシャンクを使わず、抜群の履き心地を実現したと云われています。 様々な工程を経て生れた靴は、長時間履いても疲れないフィット感が他のメーカーには無い優れた点です。またお客様の声をお聞きすると、今まで信濃屋が扱った靴の中でも、「群を抜いた履き心地」という、高い評価を得ていたのを思い出します。
参考文献
・大塚製靴 株式会社 ホームページ
・紳士靴入門 ホームページ
・MEN’S CLUB 別冊 『The Shoes』
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